彼は誰も殺さず、誰からも奪わず

彼は誰も殺さず、誰からも奪わず、誰も追放しなかった。
彼と同じ称号を持つ人物で、この点で彼に立ち勝る者は1人もいない。
――合衆国皇帝にしてメキシコの保護者、ノートン1世の崩御に際し
ニューヨーク・タイムスの追悼記事より

ノートン1世の絵も描いてみたいです。
僭称者というものは芦原金次郎の様な人物を挙げるまでも無くどこの国にもいるものですが。

どうも、意識低い系軍団兵Legionariusです。
軍団兵でLegionariusて…。トートロジーやら重複やら訳が分かりませんが。
損保ジャパン日本興亜とかシティバンク銀行みたいな……頭痛が痛くて馬から落馬して骨が骨折しそうな実に奥ゆかしいアトモスフィアがありますね。

つい最近NHK BSでやっていた“兄はイスラム原理主義者になった”とその続編が結構面白かったです。
いや、人様の人生が滅茶苦茶になる様子を描いた番組を面白いと評するのは不謹慎極まりないですね。
興味深い番組ではありました。そういう思想と行動に傾倒する人々の動機や背景が少し垣間見えて勉強になります。
皆、心の内に疑問や渇望を抱えて喘いでいるようで。分からないでもないです。
何か絶対的な教義や道標に身を委ねて疑う事を止めれば幾分かは楽になるでしょうから。

昨今、幅を利かせている原理主義を標榜する方々の動向において幾つか気になる事があります。
彼らはその目標達成の過程に欧州産の武器や異教徒の技術を用いることについて抵抗や疑問を感じないのか、はたまたどの様な思想的根拠を用意しているのでしょうか。喰うためにやってるだけ、だったりするのかもしれませんが。

施条(ライフリング)を刻んだ後装式の銃砲を用いたり、電話や無線は勿論の事、動画サイトやtwitterの様な近代的な通信技術を使用するのはその思想と相反しないものなのでしょうか。もっとも、十字軍の時代から東方は刀剣や甲冑を輸入し使用していたという記述をどこかで読んだ記憶があるので、道具の設計思想とか製造過程だとかその生産基盤足りうる
社会の形態については興味が無いのかもしれませんけど。

あらゆる西欧的文化や資本主義や民主主義を、その技術や教育や社会を否定するのなら、その軍事組織の構成や指揮命令系統や補給システム、勝利の後の占領・統治システムは時代に逆行し、その武装は6-7世紀の預言者の時代の様に、弓と矢と槍と剣と馬とに戻らざるを得ず、医療や食糧生産技術も大幅に後退すると思うのですが。

まさに大量消費社会の産物である携帯電話とかネットとか自動小銃を使うのはその信条に反しないのでしょうか。自己矛盾には陥らないのでしょうか。特にAKやRPGなんて、その思想上、宗教や神の存在を排除する傾向にあった共産圏の創造物であって、相容れない存在だと思うのですが…。仮にローマやギリシア、アレクサンドロス大王の影響まで排するならさらに1,000年以上遡る必要がある筈です。

さらに彼らがイブン・スィーナーやイブン・ルシュドの様な人物をどう捉えているか、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E5%93%B2%E5%AD%A6
イスラム圏とギリシア哲学の系譜についてどの様に認識しているのか、極めて興味深いところです。

その主張や、やり口を見るに過去の経緯や歴史へどれほどの理解を示しているのか甚だ疑問ではありますが。日本なら中学・高校辺りで教わる極めて基本的な歴史的経緯だとは思うのですが、意図的に無視されているのか…。新しい文化や技術を取り入れ、欧州にローマやギリシアの知識や文化の逆輸入すらもたらした中世のイスラム圏の方が、思想的にはよほど先進的なのでは…。いや、そもそも先進的である事を善とする思想ではないのかもしれませんけど。

東方と西方は相争い、しかし分かち難く結びついて現在の世界を形成しているという事実、過去や他者との繋がり、異質な者との交流や切磋琢磨があったからこそ自らが存在するのだという事実がすっぽり忘れ去られている様な…。そうした厚みが微塵も感じられないから、どうにも浅薄な一時の狂騒にしか見えないのです。道を見失った若者がやり場の無い力と怒りをただ無秩序にぶつけている様な。

思わず帰依したくなる様な智慧や斬新な思想や信仰を見せつけてくれるならともかく、暴力や残虐さを前面に押し出すのは前時代的で残念です。歴史を巡る者としては、比類なき大ハーンとか数万人規模の生首タワーをもりもり築いたティムール先生の様な人物を列挙するまでも無く、並外れた人物を目撃しているので、これじゃ規模においても独創性や創造性や知性においてもいまいちで退屈だと思うのです。どうせならもっと、人々を感嘆させるような新しいことをしたら良いのに、と。

自由と飲酒主義を信奉する私にとってはそもそも水と油ですけど。


・独立

ハドリアヌスの防壁以南のブリテン島は我がローマの属州であり、南方の秩序に影響を与えぬのなら、ピクト人であろうとなかろうと不毛なるカレドニアを誰が統率するかなど帝国は一切関知するところではないのである。

無論、アングル、サクソン、ジュートそしてノルマンなどという不埒にして野蛮な侵犯者達は早々に立ち退き、頭を垂れて故郷に帰るが良い。ローマの文明の光に恭順の意を示すのなら、鷹揚にも我らが皇帝陛下はその身、その羽を休める場所をお与えになるやも知れぬ。

などと酷い2世紀脳っぷりが。不毛、とか不埒かつ野蛮な侵犯者、とか英国全土を敵に回しそうな無礼千万ぶりですね。
でも、アントニヌスの長城を持ち出さないところにローマ的謙虚さがですね……(力説)。

結局、どの時代で区切るかによって土地や国の持ち主は変わってしまう訳で。
突き詰めていけば、全ての現生人類はこれまでに滅ぼしてきた数多の生物やネアンデルタール人に謝罪と賠償を……。

そういうきりの無い話はどうでもいいとして、本件について当ページは非常に関心を寄せていたのです。まるで我がことのように!もちろん英国の行く末とか、世界経済への影響とか、他の独立を望む地域への影響が気になっていたのではなく、スコッチの値段や生産、流通に影響が出ないかどうかが気がかりだったのです。それかよ…。

命の水、我がアクア・ウィタエ、ウシック・ベーハー、ウスケボー、呼び方は何でも良いですが、ウィスキーの値段が変わらなければ良いや……。絵を描くほど好きなスコットランドと偉大なるロバート1世には大変申し訳ないけれど。

ひでぇ話だ。こいつには郷土の行く末に思いを馳せる人々への共感や慈しみの念というものはないのか!
酒が悪いんです。お酒が。お前の血は何色だ、と問われたら……多分、青い血ですらなく、琥珀色の液体が身体を巡っているのでしょう。

世界史・戦史を巡るとか銘打っているのにこの体たらく。


・映画

ハンナ・アーレント

ずっと見たかったけれど二週ほど貸し出されていてなかなかレンタルできず。ようやく見ました。

全体主義の起原やイェルサレムのアイヒマンを読んだ人には今更な内容かもしれませんが、映画として良く纏まっています。1960年代の話なので滅茶苦茶に煙草を吸いまくる姿が現代と対比的に見えて面白いです。
血管が破裂してぶっ倒れようが、復帰するなり酒を飲んで煙草を吸うあたりがもう……好きな事をして死ぬのはそう悪くないと思いますけれど。

前世紀前半のドイツ、ハイデッガーとハンナ・アーレントの関係、欧州におけるユダヤ人とその歴史、戦前・戦中・戦後の扱いや振る舞い、知識人たちの動向、シオニズム、イスラエル建国、親衛隊等々ある程度の背景を知らないと訳の分からない台詞・場面もあります。

忠誠こそ我が名誉、の様な文言が特段の説明も無く登場する類の映画です。逆に言えばそういうところを押さえているとより楽しめる映画です。

何らかの巨悪、不善、惨たらしい悪行に直面した時、しばしば報道や人々はそれを自分とは全く異質の存在として切り離します。この様な邪悪な事件をしでかした存在と自分は全く別の存在であり、性質を異とするのである、と。こんな残虐なことをする者はきっと悪魔のような、怪物のような邪悪な存在であり、普通の人間とは一線を画している、と。

しかし、数百万の犠牲者を出したユダヤ人虐殺の歴史の当事者の一人であるハンナ・アーレントは極めて冷静にそうした悪行とそれに携わった者の存在の本質、そこに到る過程を解き明かしています。

結論から言えば、彼女はアイヒマンは人々が槍玉に挙げるような“悪魔”や“怪物”などではない、と表明しています。
これは“帰ってきたヒトラー”という最近の本でも取り上げられた主題ですが。

ユダヤ人の虐殺に関与し、その手腕を振るったアドルフ・アイヒマンは単なる官僚であり、事務処理に秀でた有能な役人ではあるが、思考と哲学を欠き、善悪の判断への思考を停止したつまらぬ凡人に過ぎぬと。

それが故に、その思考停止と無思慮な振る舞いこそ、全人類への冒涜であると記しています。
即ち人間性を自ら放棄している、と。

つまり、私も貴方も誰も彼もが、陰惨な虐殺に関与し、その所業に貢献する存在になり得るのであって、場に流されて悪夢のスイッチを押す人間になる可能性を持つのだということなのでしょう。全くその通りであり、現在の人間もこの根源的な問題をクリアしていないでしょう。

現に我が国は労基法を無視して自殺者を出すことも、非人間的なノルマや商慣習を課すことも、そこらで日常的に見られる事なかれ主義や官僚主義的な振る舞いにもほとんど有効な対策を施していません。何故なら、改善せよという命令がなされておらず、また自身が無力であると信じ込んでいるが故に。それら全ては本質的にはこの指摘の対象となり得るものでしょう。

アイヒマンの為した事は過去の事ではなく、遠く隔たる他人の事でもなく、まさに普遍的な人間の所業なのでしょう。
アイヒマンの様な人間が21世紀に生まれたならば、おそらく平凡な会社員として、あるいは公務員として、それなりに優秀な手腕を示し、それなりの家庭を築き、退職し、生涯を終えたのではないでしょうか。

しかしそうはならなかった。本人も時代がそうさせたのだ、命令は絶対であり、自分に選ぶ権利はなかった、と裁判で述べます。命令を拒否すれば左遷され、あるいは危害を加えられて葬られ、別の誰かが同じ任務をこなしたに過ぎない、と。おそらくその通りでしょう。

故にこれは20世紀前半に限定される悲劇や問題ではなく、今もなお人間世界を支配する極めて根源的な問題を象徴する主題となりうるのでしょう。平凡な人間の思考停止と人間性の喪失こそが大禍をもたらすのだと。

人間はあまりにも状況や雰囲気の流れに弱く、暴力や権威に抗い得ぬ存在であり、自身と家族や友人を人質に取れば
容易くその行動を束縛することができるのだと。

それは今も変わらぬ事ではあるけれど、権威に屈し、何が善きことか、悪しきことかを吟味する思考を止めてはならない、というハンナ・アーレントのメッセージは極めて重要な示唆でありましょう。

現在の国際情勢、日本の経済や社会、会社組織、官僚組織、についても当て嵌まる普遍のテーマと言えましょう。

派手なアクションシーンや色気のあるシーンなど無くとも、見る者を刺激し、注意を喚起する映画はあるのだという事を教えてくれる作品です。本能を刺激する映画も良いですが、理性や知性を刺激する映画はもっと良いと思うのです。


・お絵描き

 古代ローマの酒場、軽食堂、タベルナやポピーナをイメージしつつ。
 平和な絵はここまででしょうか。そろそろ我が内なるヤヌス神殿の扉が開く頃合です。

ローマ軍の物語Ⅹ

 ポンペイとオスティアの酒場跡などを参考にしました。
 当時の酒場の設備や人々の仕草、仕組みについては通貨の換算価値なども含めてまた次回に説明致します。

 今回はこの辺で。続きが描けたらまたお会いしましょう。
 ローマ市民ならびに元老院議員、そして軍団兵諸君にマルスとユピテルの助力あれ。
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軍団兵履歴

Legionarius

Author:Legionarius
主に世界史・戦史(東西問わず)の絵を描いております。

形式:Legionarius
状態:製造年月日から30年以上経過
使用燃料:Laphroaig,Bowmore,
Ballantine(12年が好ましいが財布が薄いのでfinest)
エンジン形式:惰性型酒冷4ストロークバルブ108気筒
始動形式:諦念あるいは深い溜息
搭乗機:CBR600RR07白→CBR1000RR2012に機種転換(乗り手に過ぎる良い機体ですがハイオクは財政が……)

音楽:(Bill Evans, Miles Davis, Dvořák, Linkin Park, Rammstein, Killswitch Engage, Enigma外)気に入れば何でも。

書物:ノンフィクション、歴史(ローマ史、古代ギリシャ,WW2外)、SF(ホーガン、ハインライン外)、最近はOsprey社の本ばかり。主にマクブライド先生のやつばかり。

漫画:(大陸軍は世界最強とかアララララーイとか)雑食。

ゲーム:ROME TOTAL WAR、MEDIEVAL TOTAL WAR
     CALL OF DUTY、S.T.A.L.K.E.R、SILENT HUNTER外

好きな陛下:Marcus Aurelius Antoninus、Flavius Claudius Julianus
好きな甲冑:ロリカ・セグメンタータ
好きなヴァンツァー:フロスト
好きなマクナブ:受領通知!!、カチカチ、カチカチ、続刊はいつですか。
以下、好きなギボン、サトクリフ、パウルカレル、スティーブンハンター、フォーサイス、ルカレ、エルロイなどと八万行に渡って続くので割愛。

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