雨晴れて笠を忘る 

 

 また雪。金曜は出先で雪中行軍して駅に辿り着くまでに電車が止まったらどうしよう、と不安でしたが何とか帰れました。結局、二輪に乗れない、慣れぬ雪掻きで腰や背筋が筋肉痛、程度の問題しか発生せず、平穏そのものでした。

 山梨がかなり酷い事になっているそうですが、オリンピックより一大事ですよね、これ。ろくにテレビも見ていないのでどちらが報道されているのかさっぱり分かりませんけど。道で動けなくなって車ごと埋まるってのは想像するだに恐ろしいですが、いったいどれくらいの規模の被害が出ているのか。
 
 久しぶりに自然の猛威と言う奴を見せつけられた思いです。潰れた建物や雪に埋もれた道路や線路の写真を見て、人類が消えた世界という本を思い出しましたが、人の手が入らないと建物やインフラはあっという間に崩壊していくのでしょう。

 また降るという予報もあるそうで、用が無ければ大人しくしている方が良さそうです。
 というか休みたい。 


 ・カレーと私

 エチオピアという名前のカレー屋がありまして、前から気になっていたので入ってみたのです。
 で、メニューには辛さの指定が可能と御座いまして。0~70倍までいけるそうで。ほほう、だがその手には乗らんぞ、安易に頼むととってもお辛いんでしょ、と。

 未知の領域に踏み込む時は慎重さを欠いてはならない、と私は常々思っているので5倍、多くて10倍くらいにしておこうと、クィントゥス・ファビウス・マクシムスの慎重さを見習うべきだと、そう考えたので御座います。もう子供じゃないんだし、無駄に冒険をする様な真似はしまい、と。店員を呼び、チキンカリー10倍と呪文を唱えようとした刹那、カウンターの隣の学生と思しき女性がこう言い放ったのです。

 野菜豆カリー40倍。

 何……だと……!? 界王拳の使い手か。
 何て事をいってくれたんだ…。お前は終わり無き軍拡競争の火蓋を切ったのだぞ、と。

 そして先祖たちが囁きかけたのです。 
 栄えあるローマ市民がこんな小娘に負けるのか、と。
 カルタゴを下し、ガリアを制し、ダキアを捻り潰し、パルティアを叩きのめした軍団兵が戦う前に諦めるのかと。
 
 嗚呼、私は間違っていた、時に大胆さこそが肝要なのだ。マルスよユピテルよ、アピキウスよ、我に力を!
 私はチキンカリー40倍、とやけに良い発音で頼み、ブツが出来るのを待ちました。

 果たしてやってきたカレーは普通の見た目で問題なくいけそうでした。0-70のうち40倍ということは大体真ん中くらいじゃないか、存外大した事は無い、造作も無く平らげてくれるわ、と一口目を口にした瞬間衝撃が走ったのであります。

 ちょ、やだ何これ超辛い。
 いや、何というかこう、分かり易く言うと滅茶苦茶辛いんですけど…。
 冬だというのに、まだ外には雪が積もっている所もあるというのに額から汗が止め処なく流れ落ち、舌は焼けそうに熱い。

 私をこの地獄に引きずり込んだ隣の悪魔はどうしているかとちらりと見やると涼しい顔をして召し上がっておられる。
 こんなの絶対おかしいよ、奴は舌がどうかしてるんだよ…。
 完全敗北の四文字に打ちのめされつつ、コップに何杯も水を注ぎ、何とか平らげたのでございました。

 やはり慎重さを欠くとろくなことにならないのです。
 先祖の亡霊なんぞに耳を貸してはならんのです。 
 
 その後、休み時間中ずっと妙な汗を額から流して机に伏しておりました。
 辛いのは好きだけれど、あまり得意ではないのかもしれない……。

 普通の辛さなら美味しいと思います。


・古代ローマのニート、ローマ軍団に入隊する。第2回
 
 こっちの方がより実態に即したタイトルと言えるかもしれませんね。
 今回は入隊審査ということで。

ローマ軍の物語Ⅱ

ローマ軍の物語Ⅱおまけ


 以下pixivより

 ローマ軍の物語Ⅱ“冥界の門”

 試験将校委員会の審査やプロバティオ(考査過程)では出自、頭の出来から視力、体格、体力まで何もかも調べ上げられる。簡単な読み書き計算が出来るか、受け答えはおかしくないか、怪我や病気はないか、共同生活に適応できるか。
 そして何より軍団の仕事、歩いて、歩いて、歩いて、穴を掘って、たまに戦って、また歩く事ができる体かどうかだ。勿論、最初から使い物になる屈強な奴はいない。軍団の連中はこれから鍛えるに値する素材かどうかを見る。

 審査に出頭した俺を“温かく”迎えたのはガリア出身と思しき剣闘士みたいに首の太い募兵担当将校だった。棍棒で殴られても蚊を払う様な仕草をする類の大男だ。
 “剣闘士”は見慣れない貨幣を前にした両替商の様に目を細めて、俺を頭の先から爪先まで睨みつけてきた。その時点で早くも帰りたくなったが、軍団兵になると家族に宣言した手前、今更帰る訳にもいかず、俺は審査に集中する事にした。

 そもそも俺は“この店”の“お客様”になるつもりはなかったし、意味も無いのに笑みを浮かべて親切にする奴は大抵信用ならない。そういう意味では“剣闘士”の品定めをする様な目つきはそれだけ仕事に集中していたという事なのだろう。やがて“剣闘士”は書記の奴隷に俺のぱっとしない身体的特徴を記録するよう言いつけ、さもつまらなそうに鼻を鳴らし、偉そうに顎を突き出して次の審査に向かう様に指示した。

 しばしの順番待ちの後、次はどんな奴が待ち構えているのやら、と身構えていた俺を死神オルクスの様に青白い顔のギリシア人軍医が出迎えた。俺は偉大なるローマ擁する軍団の個性的な人材の豊富さに、驚きと不安を抑える事が出来なかった。もしかしたら俺はとんでもない所に来てしまったのではないだろうか、と。
 これについて言えば俺の驚嘆は時期尚早に過ぎたと言わざるを得なかった。要するに軍団にはもっと色んな奴がいて、俺の見聞きしてきた世界はあまりに狭すぎたという訳だ。とんでもない所に来てしまったという所感についてはあまりに遅すぎたと言わざるを得ない。軍団の門をくぐった時点で猛禽に鷲掴みにされた魚みたいに手遅れだ。

 死の魔神……いや軍医は口から冷気を吐くでもなく、俺の町ではまず聞けない様な丁寧な口調で名簿に名前を書くよう指示し、そこでようやく俺は我に返った。
 まるでカロンの舟の乗船名簿に自分で名前を書くような気分だった。おまけにその後の面接試験ではいつの間にか合流した“剣闘士”の威圧感も相まって、柱廊の学校で宿題を忘れ、予習もしていないのに教師に当てられた時みたいな気持ちになった。いや、宿題と予習については悪いのが俺なのは分かっていたが。

 下っ端の兵隊にご大層な頭はいらないのだから、大した質問など無い筈だ。だが緊張のあまり、まるでスフィンクスの謎かけみたいに考え込んで、大いに冷や汗を掻いた。 必死だったので質問も回答も今一つ思い出せないが、結局重要なのは“はい”“問題ありません”“出来ます”“やります”などの肯定的な答えを“元気そうに”する事だ。軍団は料理の注文を聞く店員の様にこちらの意向や要望などお望みではない、いつだってそいつが“やるのか、やらないのか”それを知りたがっている。

 体格基準を大きく下回る奴、顔色の悪い奴や致命的なまでにお行儀の悪い奴は落とされるらしいが、俺は何とか合格をもらえた。生まれて初めて公に人並みだと認められた様で嬉しかったが、後で聞いた話では北で死人が大勢出て部隊が再編制されていたそうだ。人が余っていたら俺が採用されたかどうかは分からないが、良く分かったことが一つだけある。

 大抵の真実は知らない方が良い、という古参兵の警句はどうやら真実らしい、という事だ。世の中には愉快に生きるには知るべきではない事が多すぎる。
 誰だってお気に入りの服を洗濯屋がどうやって綺麗にするかなんて知りたくないだろう。葡萄酒を作る時に葡萄を踏むのは本当に“麗しき乙女”なのかどうか、虫がどれくらい混じるかなんて知りたくはない、つまりそういう事だ。

 何にせよ、門前払いになって、ウェスパシアヌス帝の下で戦った祖父の名誉を汚す羽目にはならなかった事に安堵した。爺さんは出来の悪い俺を可愛がってくれたので、なおさら失望させたくはなかったのだ。
――つづく――次回、ローマ軍の物語、第3話“メルクリウスの導きあれ”
ROMA AETERNA EST!!

採用基準:何よりもまずローマ市民である事。17-18歳以上、身長155cm以上、体格、視力等に問題の無い者。ラテン語の読み書きの出来る者。目立った犯罪歴、素行不良の無い者など。もっとも、理想的な採用基準が常に満たされていたとは限らないだろう。多少小柄でも頑強ならば採用されたらしい。(身長177㎝以上と書かれた書籍もあるが大柄とされた古代のゲルマン人も170cm前後であり、それより小柄なローマ人の平均的な体格を考えると疑問が残る)

審査、プロバティオ:前者は試験将校による審査、応募者の資質が基準を満たしているかを確認した。後者は一次審査、考査過程、試験期間など書籍により様々な訳と解釈があるが、一定期間の試験採用だったようだ。いずれにせよこれらの審査・試用過程を経て軍団に認められぬ事には正式な軍団兵になる事は出来なかった。

ガリア: 現在のフランス・ベルギー・スイス等にあたる地域のローマ人による呼称。一つの国家があったわけではない。実際は様々な部族が住んでおり、ケルト人、ゲルマン人などが混在し、ガリア人と一纏めにするのは難しい。ゲルマニアやガリアなどの北方はローマ人と比べて比較的大柄な体格の人が多かったらしい。カエサルにより征服され、ローマ化が進んでいた。ガリアやゲルマニア出身だろうがギリシア生まれだろうが市民権保持者ならばローマ人である。肌の色も髪の色も関係ない。

書記:ローマ人や書記の奴隷は蝋引きの書字板やパピルス、木簡などにメモっていた。1世紀には羊皮紙も普及していたが質の良いものは高級品だったようだ。

軍医:階級や詳しい役割は明らかではないがローマ軍団には軍医や軍医の助手、衛生兵の様な医療を専門とする者がいた。教師と同じく医師はギリシア人が多く、その知識と技術は重宝された。但し、民間における医師の社会的評価・待遇は教師と同様、あまり良くなかった模様。

オルクス:エトルリア・ローマ神話の死神

カロン:ギリシア神話、冥府の河の渡し守

柱廊の学校:ローマにおける初歩的な教育はしばしば公共施設の片隅や柱廊など屋外で行われた。

スフィンクスの謎かけ:朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足。この生き物は何か?答えられない者は食い殺される。

洗濯:古代ローマの洗濯屋は木灰、白土、そして尿を使用した。尿素が分解してできるアンモニアには洗浄作用があるのだとか。ウェスパシアヌス帝はこうした用途に需要のある尿を公衆便所で集め、業者に有料で提供する事で財政健全化策の一助とした。批判を受けた皇帝は金を鼻先に突きつけてこう言った。どんな集め方をしようが”金は臭わない”。

 以上
 
 ローマ軍についてまず驚きなのが、2,000年前の軍隊であるというのに市民の志願制である事、現代の軍事組織にも通じる様な入隊審査や基礎訓練のシステムが確立されていたことです。
 入り口の時点で既に驚きです。そういった組織を作るに至ったのは状況と必要性と言う環境によるところも大なのでしょうが、ある種現代的に見えるシステムに惹かれます。

 ウィンドランダ要塞から出土した資料が示す様な、軍団の文書主義などからもその先進性を垣間見る事が出来ます。
 Vindolanda Tablets Onlineで検索すると発掘された文書とその対訳を参照可能なページが見つかります。
 

 次はインスラの立ち並ぶローマの街並みを描く事にします。 

 今回はこの辺で。続きが描けたらまたお会いしましょう。
 ローマ市民ならびに元老院議員、そして軍団兵諸君にマルスとユピテルの助力あれ。
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軍団兵履歴

Legionarius

Author:Legionarius
主に世界史・戦史(東西問わず)の絵を描いております。

形式:Legionarius
状態:製造年月日から30年以上経過
使用燃料:Laphroaig,Bowmore,
Ballantine(12年が好ましいが財布が薄いのでfinest)
エンジン形式:惰性型酒冷4ストロークバルブ108気筒
始動形式:諦念あるいは深い溜息
搭乗機:CBR600RR07白→CBR1000RR2012に機種転換(乗り手に過ぎる良い機体ですがハイオクは財政が……)

音楽:(Bill Evans, Miles Davis, Dvořák, Linkin Park, Rammstein, Killswitch Engage, Enigma外)気に入れば何でも。

書物:ノンフィクション、歴史(ローマ史、古代ギリシャ,WW2外)、SF(ホーガン、ハインライン外)、最近はOsprey社の本ばかり。主にマクブライド先生のやつばかり。

漫画:(大陸軍は世界最強とかアララララーイとか)雑食。

ゲーム:ROME TOTAL WAR、MEDIEVAL TOTAL WAR
     CALL OF DUTY、S.T.A.L.K.E.R、SILENT HUNTER外

好きな陛下:Marcus Aurelius Antoninus、Flavius Claudius Julianus
好きな甲冑:ロリカ・セグメンタータ
好きなヴァンツァー:フロスト
好きなマクナブ:受領通知!!、カチカチ、カチカチ、続刊はいつですか。
以下、好きなギボン、サトクリフ、パウルカレル、スティーブンハンター、フォーサイス、ルカレ、エルロイなどと八万行に渡って続くので割愛。

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